お嬢様が、初孫に会いにいらしたお母様から「生前贈与よ」と手渡されたのは、かつてお父様がお母様へ贈ったダイヤモンドリングでした。
指輪を引き継がれたお嬢様は、当初、この指輪のキズ取りを御希望で私どもへ御連絡くださいました。
画像で御覧のように、金属部分に御愛用痕が多く、金属の摩耗も見られます。
可能な限りの仕上げで承ることも出来ましたが、お話しを伺ううちに、新しい御提案をしたい と考えるようになりました。

お父様は早くに他界され、その後女手ひとつでお嬢様を育てたお母様。
学級参観日や文化祭をはじめ、卒業式、結婚式といった節目には、必ずこの指輪をして参加されていました。
お父様がお母様と結婚されたのは、「婚約指輪は給料の3ヶ月分」キャンペーンまっさかりの1982年。
以前も掲載しましたこちら、雑誌ブルータス1982年3月号の1ページです。

画像で文字が見えていませんが、1982年のダイヤモンドの価格が印字されています。
0.3カラットで34万円から80万円、0.5カラットで65万円から175万円となっています。
ダイヤモンド価格は、ドル円相場に大きく影響されます。
当時はUSD1≒250円でした。
今と比べると、ダイヤモンドの価格が高いことも納得です。
お嬢様がお持ち込みされたダイヤモンドは、0.4カラットを超えていました。
バブル景気と相まって、相応のお値段だったと推察されます。

以前コラムに書いたように、婚約指輪という風習が出来た1つの理由として、夫が亡くなったあとに売却して生活費にあてられるよう資産として贈る習慣があった と言われています。
コラムはこちら★
お嬢様からすると、指輪を売却すれば少しは生活の足しになるのにと思うこともあったようです。
ですが、自分も結婚してみると、この指輪は お母様が女手ひとつでお嬢様を育てる心の支えになっていたのではないかと思う とおっしゃっていました。
さて、お嬢様は当初、この指輪のキズ取りのみをお考えでした。
キズ取りのみでお返しすることは可能です。
ですが、おそらくすぐに薄くなったツメが影響し、ダイヤがカタカタと揺れたり、最悪の場合はダイヤが落ちて紛失してしまう可能性があります。
第2案として、同じデザインで新しく金属部分を作成する納期・金額もお出ししました。
このデザインは、当時主流だったデザインで、今は「鬼爪」と呼ばれるダイヤモンドを留めているツメの貼りだしたデザインです。今ではなかなか見なくなりましたが、オーダーでしたら作製は可能です。
そして第3案として、私どもからの御提案で片耳ピアスにするお見積りもお伝えしました。

お母様と同じ美容師となったお嬢様は、迷わずピアスを選ばれました。
お母様が指輪を毎日は身に着けられなかったのは、美容師という職業柄もあったからです。
ピアスであれば、育児中も指輪より着けられるかもしれない、というお話しもありました。
お嬢様の学級参観日や卒業式、結婚式をお母様と一緒に見守ってきたお父様のダイヤモンド。
これからはお孫さんの成長を見守ってくれることでしょう。
長いコラムをお読みくださり、ありがとうございました。
お客様の御了承を得て、詳細を書いております。
私どもでは、お話しをうかがいったうえで、御依頼のもの以外にいくつかの御提案をさせていただく場合がございます。
そのため、Special Orderの現物作成に取り掛かるまでに数か月かかることもありますので、お時間に余裕を持って御連絡いただけると助かります。
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